世界の年金マネーが株式市場を支える?「暴落しても回復が早い時代」は来るのか

世界の年金マネーが株式市場を支える? 資産運用
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世界の株式市場には、私たちが想像する以上に巨大な「年金マネー」が投資されています。

日本ではGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が代表的です。

GPIFは現在、

・国内債券:25%
・外国債券:25%
・国内株式:25%
・外国株式:25%

を基本ポートフォリオとしており、実に資産の50%を株式で運用しています。
GPIFが実際にどのような考え方で資産配分を維持し、リバランスを行っているのかについては、こちらの記事でも詳しく取り上げています。
▶ 関連記事:GPIF「大きすぎるクジラ」の苦悩とは?300兆円超の年金運用から学ぶ資産管理

海外でもノルウェー政府年金基金、韓国の国民年金(NPS)、米国の公的年金など、巨大な年金資金が株式市場に投入されています。

そこで気になることがあります。

これだけ国民の年金資産が株式市場に投資されるようになると、大暴落を政府や中央銀行が放置することは難しくなるのではないでしょうか。

そして、その結果として、

「暴落はこれからも起こる。しかし、暴落からの回復期間は以前より短くなる」

という変化が起きる可能性があります。

今回は、この仮説について考えてみます。


世界の年金が「株主」になった

世界の年金マネーが株式市場を支える仕組み

かつて年金運用というと、国債など安全性の高い資産を中心に運用するイメージがありました。

しかし現在は大きく変わっています。

日本のGPIFも、株式から企業活動や経済成長の成果を取り込むことを目的として、国内株式25%、外国株式25%を基本配分としています。

つまり、日本国民の公的年金資産の一部は、

トヨタや三菱商事などの日本企業だけでなく、米国をはじめとする世界中の企業の成長

によって支えられていることになります。

これは日本だけの話ではありません。

世界各国の年金基金も株式、不動産、インフラなどへ資金を振り向けています。

現代の株式市場は、単に一部の富裕層や投資家が参加する市場ではなく、

「世界中の人々の老後資金を運用する場所」

という性格を強めているのです。


株価暴落が「年金問題」になる時代

ここで非常に重要なのが、株価と政治の関係です。

株式市場が暴落すると、損失を被るのは個人投資家だけではありません。

巨大な年金基金も影響を受けます。

すると、

株価暴落
 ↓
年金基金などの運用資産が減少
 ↓
個人の金融資産も減少
 ↓
消費者心理が悪化
 ↓
企業業績・資金調達にも影響
 ↓
雇用・景気が悪化
 ↓
政治問題へ

という連鎖が起こる可能性があります。

特に米国では、株式市場と国民の資産形成との結び付きが強いため、大規模な金融危機を政策当局が完全に放置することは難しいと考えられます。

ただし、ここには重要な注意点があります。

FRB(米連邦準備制度理事会)は「株価を上げること」を目的に金融政策を行っているわけではありません。

FRBの重要な使命は最大雇用と物価安定であり、金融システムの安定も重要な責務です。

したがって、

「S&P500が20%下落したからFRBが助ける」

という単純な話ではありません。

株価暴落が信用市場、企業金融、銀行、雇用などに波及し、金融システムや実体経済に重大な問題を起こした場合に、大規模な政策対応が行われる可能性が高まると考えた方がよいでしょう。


巨大年金基金そのものが「暴落時の買い手」になる可能性

もう一つ面白いポイントがあります。

年金基金は長期運用を前提としているため、一般投資家とは異なる行動を取ることがあります。

例えば、

株式50%
債券50%

を基本配分としている基金があったとします。

株価が大幅に下落すると、ポートフォリオに占める株式の割合も低下します。

仮に株式だけが30%下落すると、

株式:約41%
債券:約59%

程度になります。

すると、元の「株式50%・債券50%」へ戻すためには、

債券を売り、値下がりした株式を買う

必要があります。

これが「リバランス」です。

つまり巨大な年金基金は、株価が上昇している時だけ株を買う存在ではありません。

むしろ運用ルールによっては、

株価暴落時に株式を買う巨大な長期投資家

にもなり得るのです。

IMFも、年金基金は長期の投資期間を持つことなどから、ストレス局面で安定的・機会的な買い手となり得る一方、急速なリバランスや流動性問題が市場を不安定化させる可能性も指摘しています。


2020年「コロナショック」は象徴的だった

この仮説を考えるうえで非常に興味深いのが、2020年のコロナショックです。

新型コロナウイルスの感染拡大によって世界経済が停止するという、極めて大きなショックが発生しました。

2020年2月19日の高値から3月23日の安値まで、S&P500は約34%下落しました。

ところが、その後の回復は驚くほど速いものでした。

FRBは2020年3月23日、米国債や住宅ローン担保証券(MBS)を市場機能を支えるため「必要な量」購入する方針を打ち出しました。

さらに企業向け信用市場を支援する制度なども相次いで導入しました。

FRBの証券保有額は2020年3月中旬から8月中旬までに約2.36兆ドル増加しています。

そして米国株は急速に反発しました。

「歴史的な速度で暴落し、歴史的な速度で回復する」

という、現代の株式市場を象徴する出来事だったとも考えられます。


なぜ現代の暴落は回復が早くなる可能性があるのか

ここまでを整理すると、現代の株式市場には昔にはなかった、あるいは昔より巨大になった「市場を支える仕組み」が存在します。

【現代の市場を支える要因】

・中央銀行による金融政策
・政府による大規模な財政政策
・世界の巨大年金基金
・年金基金などによるリバランス
・企業による自社株買い
・世界的に普及した長期・積立・インデックス投資
・世界規模で分散された機関投資家マネー

こうした要素を考えると、

暴落そのものがなくなるわけではないものの、金融危機が発生した際の「対応速度」は昔より速くなっている

可能性があります。


「暴落しない市場」ではなく「回復が早い市場」へ?

ここが今回の記事で最も重要なポイントです。

「これから株式市場は暴落しなくなる」と考えるのは早計です。

むしろETF、アルゴリズム取引、レバレッジ取引、世界市場の連動などによって、

短期間で一気に20~30%下落するような暴落

は今後も十分に考えられます。

しかし変わってくる可能性があるのが、

暴落後の回復期間

です。

昔のイメージが、

暴落
 ↓
長期低迷
 ↓
景気回復
 ↓
ゆっくり株価回復

だったとすれば、現代は、

暴落
 ↓
政府・中央銀行が対応
 ↓
年金基金など長期資金がリバランス
 ↓
金融市場が安定
 ↓
株価が急反発

というサイクルが以前より短くなる可能性があります。

つまり、

「暴落が小さくなる」のではなく、「暴落から立ち直るスピードが速くなる」

という考え方です。


ただし「政府が必ず株価を助ける」と考えるのは危険

ここまで読むと、

「それなら暴落しても政府やFRBが助けてくれるのでは?」

と思うかもしれません。

しかし、そこまで単純ではありません。

最大の問題が、

インフレ

です。

例えば、

株価▲30%
インフレ率5%

という状況を考えてみます。

通常なら景気や市場を支えるために、

利下げ

量的緩和

市場への資金供給

を行いたくなります。

しかし高インフレの状態で大規模金融緩和をすると、さらにインフレを悪化させる可能性があります。

その場合、中央銀行は簡単には金融緩和へ動けません。


暴落の「原因」によって回復速度は違う

さらに重要なのが、

すべての暴落が同じではない

ということです。

例えば、

【コロナショック型】

感染症・戦争・災害など外部から突然発生したショック。

企業価値そのものが長期的に失われていなければ、原因が解消し政策支援が入ることで急速に回復する可能性があります。

【リーマンショック型】

金融機関や信用システムそのものが傷つくケース。

金融システムの修復に時間が必要になるため、より深刻になる可能性があります。

【ITバブル型】

企業利益に対して株価が高くなりすぎたことによるバリュエーション調整。

金融緩和をしても「高すぎた株価」にすぐ戻るとは限りません。

したがって、

「政策対応が速くなった=すべての暴落からすぐ回復する」

とは考えない方がよいでしょう。


個人投資家にとって重要なのは「暴落時に売らなくて済むこと」

では、この変化を個人投資家はどう考えればよいのでしょうか。

ここから導かれるのは「暴落を恐れなくていい」

という結論ではなく、

「暴落時に株を売らなくて済む資産設計がより重要になっている」

と考えます。

例えば株価が30%下落したところで恐怖に耐えられなくなり、すべて売却したとします。

その直後、

政府の経済対策

中央銀行の金融政策

金融市場の安定

株価急反発

となれば、最も安いところで株を手放してしまう可能性があります。

逆に生活資金などを現金で確保していれば、

暴落

株式を売らずに生活

景気・企業業績の回復を待つ

株価回復

という選択ができます。

「いつ暴落するか」を当てることよりも、

「暴落しても売らなくて済む状態を作る」

ことの方が、長期投資では重要なのかもしれません。

長期投資では、短期的に市場平均を上回ること以上に「市場に居続けること」が重要です。世界最大級の機関投資家であるGPIFの運用から、インデックス投資について考えた記事はこちらです。
▶ 関連記事:GPIFでも市場平均に勝てない?「3勝7敗」から考えるインデックス投資


年金マネーの巨大化は株式市場を安定させるのか

世界の年金基金が巨大化し、その多くが株式を保有する現在、

株式市場と国民生活の距離は以前より近くなっています。

株価暴落は、

「投資家だけの問題」

ではなく、

「年金・雇用・消費・景気の問題」

へ波及する可能性があります。

そのため、大規模な金融危機が起きれば政府や中央銀行が市場機能や実体経済を守るために対応する政治的・経済的必要性は非常に大きくなります。

さらに年金基金そのものが長期投資家として、暴落時にリバランスによる買い手になる可能性があります。

こう考えると、今後の株式市場は、

暴落しない市場

ではなく、

「暴落しても回復する力が以前より強い市場」

になっていく可能性があります。


まとめ|暴落より「暴落後」を考える時代へ

世界の年金マネーが株式市場へ大量に投資される現在、株価と国民生活はこれまで以上に密接につながっています。

今回のポイントをまとめます。

【この記事のポイント】

・GPIFは基本ポートフォリオの50%を国内外の株式に配分している
・世界の巨大年金基金も株式市場の重要な参加者になっている
・株価暴落は年金・消費・雇用などを通じて政治問題になり得る
・金融システム危機になれば政府・中央銀行が対応する可能性が高まる
・年金基金のリバランスが暴落時の買い需要になる場合もある
・2020年のコロナショックでは暴落後の回復が非常に速かった
・一方、インフレ局面では中央銀行が簡単に市場を支援できない
・バブル崩壊や金融危機では回復に長期間かかる可能性もある
・「暴落しない時代」ではなく「政策対応が速く、回復力が高まった時代」と考える方が適切

株式投資では、

「次の暴落はいつ来るのか?」

という問いに注目しがちです。

しかし世界の年金マネー、中央銀行、政府、インデックス投資などによって市場構造そのものが変化しているのであれば、これから重要になる問いは、

「暴落した後、何が株価を回復させるのか?」

なのかもしれません。

暴落を予測することは非常に困難です。

だからこそ長期投資では、

暴落を避けることより、暴落を乗り越えられる資産配分を作る。

この考え方が、これまで以上に重要になっていくのではないでしょうか。

※本記事は投資に関する情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。

【参考資料・公式サイト】

■ GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)
基本ポートフォリオの考え方


■ GPIF
なぜ株式に投資するのですか。もっと安全に投資すべきではないですか。


■ GPIF
最新の運用状況


■ Federal Reserve(米連邦準備制度理事会)
Federal Reserve announces extensive new measures to support the economy
(2020年3月23日・コロナショック時の金融市場支援策)


■ IMF(国際通貨基金)
Pension Funds and Financial Stability
(年金基金と金融システムの安定性)


■ Norges Bank Investment Management
Government Pension Fund Global ― Benchmark index
(ノルウェー政府年金基金の資産配分)


■ National Pension Service Investment Management(韓国NPS)
Investment Portfolio



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