製薬株と聞くと、どのようなイメージを持つでしょうか。
「景気が悪くなっても薬は必要だから、株価も安定している」
そんなイメージを持っている人も多いと思います。
実際、製薬株は一般的に「ディフェンシブ株」と呼ばれ、景気変動の影響を比較的受けにくい業種です。
ところが現在、国内製薬大手の株式市場での評価は大きく変化しています。
特に目立つのが、かつて時価総額で国内製薬トップに立った第一三共(4568)の失速です。
日本経済新聞によると、第一三共の時価総額はピークから約2年間で6割近く減少。一方で武田薬品工業や大塚ホールディングス(HD)が評価を高め、製薬業界の勢力図が変わりつつあります。
今回は、
「なぜ第一三共の評価はこれほど変わったのか?」
を中心に、製薬株を投資対象として見るときのポイントを初心者にも分かりやすく考えてみます。
国内製薬株の勢力図が変わってきた

国内製薬業界では、ここ数年、
中外製薬
↓
武田薬品工業
↓
第一三共
などが時価総額上位を争ってきました。
ところが現在、大塚HDが第一三共を抜いて時価総額3位に浮上するなど、順位が変化しています。
興味深いのは、単純な「売上高ランキング」と「株式市場からの評価」が一致していないことです。
2026年度の会社予想では、売上高は次のようになっています。
| 企業 | 2026年度売上高予想 |
|---|---|
| 武田薬品工業 | 4兆6,400億円 |
| 大塚HD | 2兆5,200億円 |
| 第一三共 | 2兆2,800億円 |
| アステラス製薬 | 2兆2,200億円 |
| 中外製薬 | 1兆3,450億円 |
売上高だけを見ると武田薬品が圧倒的です。
しかし株式市場では、「現在どれだけ売っているか」だけでなく「将来どれだけ稼げる薬を持っているか」が非常に重要になります。
ここが製薬株を見るうえで最大のポイントです。
第一三共はなぜ急成長したのか
第一三共の企業価値を大きく押し上げたのが、抗がん剤の「エンハーツ」です。
第一三共は従来の循環器領域などから、がん領域へ大きく舵を切りました。
その中心となった技術が、
ADC(抗体薬物複合体)
です。
簡単にいうと、
がん細胞を見つける「抗体」に強力な薬をつけて、がん細胞まで運ぶ
という仕組みです。
正常な細胞への影響を抑えながら、がん細胞を狙って薬を届けることを目指します。
その代表的な薬がエンハーツです。
エンハーツの世界的な成長期待から第一三共の評価は急上昇し、2022年以降には国内製薬会社の時価総額首位になる局面もありました。
ところが第一三共の時価総額は2年で約6割減
状況は大きく変わりました。
第一三共の時価総額はピークから約2年間で6割近く減少しています。
ここで重要なのは、
「第一三共の薬がまったく売れなくなったから株価が下落した」
という単純な話ではないことです。
むしろ問題になっているのは、
「エンハーツの次はどうなるのか?」
という市場の期待です。
株価は現在の業績だけではなく、将来の成長まで先回りして織り込みます。
エンハーツへの期待によって非常に高い評価を受けていた分、次の超大型薬候補への不安が強くなると、評価が大きく修正されることになります。
つまり、
業績悪化というより「将来への期待値の低下」
という側面が非常に大きいわけです。
製薬株最大のポイント「パイプライン」とは?
製薬株を調べていると、
「パイプライン」
という言葉が頻繁に登場します。
これは、
現在開発中の新薬候補
のことです。
製薬会社は基本的に、
研究
↓
臨床試験
↓
承認申請
↓
承認
↓
販売
↓
大型薬へ成長
という流れで新薬を生み出します。
しかし、新薬候補のすべてが成功するわけではありません。
途中の臨床試験で十分な効果が確認できなければ、開発中止になる場合もあります。
反対に、世界的な大型薬に育てば、企業に長期間大きな利益をもたらします。
そのため株式市場では、
「今いくら稼いでいるか」
だけでなく、
「次の10年を支える薬を持っているか」
が極めて重要になります。製薬業界の中長期的な企業価値は、新薬候補の成否によって大きく変化し得ます。
大塚HDが第一三共を逆転
第一三共とは対照的に評価を高めているのが、
大塚ホールディングス(4578)
です。
「大塚」と聞くと、
- ポカリスエット
- カロリーメイト
- オロナミンC
などを思い浮かべる人も多いでしょう。
しかし大塚HDは、世界的に医薬品事業を展開する大手製薬企業でもあります。
現在、株式市場が注目しているものの一つがIgA腎症治療薬です。
新薬への期待が高まり、大塚HDは第一三共を抜いて国内製薬企業の時価総額3位に浮上しました。
ここでも、
「将来どれだけ稼げる薬を持っているか」
が株価評価に直結しています。
武田薬品にも変化の兆し
そしてもう一社、注目されているのが、
武田薬品工業(4502)
です。
武田薬品は2019年、アイルランドの製薬大手シャイアーを巨額買収しました。
この買収による有利子負債などへの懸念から、長期間にわたって株式市場では評価が伸び悩む局面がありました。
ところが現在は新薬開発などに変化の兆しが見られ、市場評価も上向いています。
2026年度の売上高予想は4兆6,400億円と国内製薬会社では最大規模です。
武田の場合は、
大型買収後の立て直し+新薬パイプライン
が今後の評価を左右するポイントになりそうです。
中外製薬も安泰とは限らない
現在、国内製薬企業で時価総額トップを維持しているのが中外製薬(4519)です。
ただし、中外製薬も盤石というわけではありません。
記事では、米イーライ・リリーに開発・販売権を譲渡した肥満症治療薬をめぐる評価などから、足元では時価総額が減少しているとされています。
トップは維持しているものの、武田薬品や大塚HDが追い上げています。
つまり現在の製薬業界は、
中外一強というより「新4強」の競争
として見た方が面白くなってきています。
「ディフェンシブ株=株価が安定」は少し違う
今回の記事で個人的に特に興味深かったのがここです。
製薬株は一般的に、
ディフェンシブ株
と呼ばれます。
景気後退になっても、薬を使わなくなるわけではないからです。
ところが、
「業績が景気に左右されにくい」ことと「株価が動かない」ことは別問題
です。
製薬会社の場合、
大型薬の成長
→ 特許切れ
→ 次の新薬
→ 臨床試験
→ 承認
という独特のサイクルがあります。
一つの新薬の成否によって、将来の利益予想が大きく変わります。
その結果、
ディフェンシブ企業なのに株価はかなり大きく動く
という現象が起こります。
第一三共の時価総額が約2年間で6割近く減ったことは、その典型例といえるでしょう。
2026年は医薬品株全体にも逆風
個別企業だけでなく、製薬業界全体にも逆風があります。
2026年は日経平均株価が約30%上昇する一方、業種別指数の「医薬品」は約2%下落しています。
背景には、米国の薬価政策をめぐる懸念があります。
さらに現在の株式市場ではAI・半導体関連企業への資金流入が強く、
「AI需要の直接的な恩恵を受けにくい製薬株」
が相対的に選ばれにくくなっている面もあるようです。
ただ、見方を変えればここは重要です。
AI・半導体株とは異なる値動きをするセクターとして、製薬株をポートフォリオに組み込むという考え方もできます。
AI関連株への資金流入や金利上昇が日本株全体に与える影響については、こちらの記事でも詳しく整理しています。
AIブームの意外なリスクは金利上昇?日本株が「安全資産」になる可能性
製薬株を見るなら「PER」だけでは不十分
私自身、株式投資をするときには、
- 売上高
- 営業利益
- EPS
- PER
- PBR
- 配当利回り
などを確認します。
もちろん製薬株でも重要です。
しかし今回改めて感じるのは、製薬会社をPERだけで判断するのは難しいということです。
例えば現在利益が大きくても、主力薬の特許切れが迫っていて次の新薬が育っていなければ、数年後の利益は大きく変わる可能性があります。
反対に現在の利益がそれほど大きくなくても、有望な新薬候補が臨床試験を順調に通過すれば、株式市場の評価が一気に高まることもあります。
したがって製薬株では、
製薬株で最低限チェックしたい6項目
☑ 現在の業績
☑ 主力薬と売上規模
☑ 主力薬の特許期間
☑ 新薬パイプライン
☑ 臨床試験の進捗
☑ 海外売上・薬価政策
あたりをセットで見る必要がありそうです。
第一三共は「6割下落=割安」とは限らない
ここも投資初心者として気をつけたいところです。
株価が大きく下落すると、
「6割も下がったなら、そろそろ安いのでは?」
と思ってしまいます。
しかし株式投資では、
「高値から何%下がったか」と「現在割安かどうか」は別問題
第一三共の場合、以前の株価にはエンハーツだけでなく、次世代ADCなど将来の成長への大きな期待も織り込まれていました。
その期待が修正された結果が現在の株価だと考えれば、
「6割下がったから買い」
とは単純には判断できません。
逆に、市場が将来性を悲観しすぎているのであれば、長期投資家にはチャンスになる可能性もあります。
ここを判断するには、今後のパイプラインを確認する必要があります。
まとめ|製薬株は「未来の薬」に投資する
今回の「製薬株、変わる勢力図」という記事を読んで最も印象に残ったのは、
製薬株は現在の利益だけを見る投資ではない
という点です。
第一三共はエンハーツによって一気に国内トップクラスへ駆け上がりました。
しかし、その後は次の成長薬への期待が低下し、時価総額はピークから約6割減少。
一方で、大塚HDは新薬への期待から評価を高め、武田薬品にも変化の兆しが見えています。
製薬株を見るときには、
「今何を売っているか」+「5年後、10年後に何を売っているか」
の両方を見る必要があります。
これは半導体株とはまた違った面白さがあります。
半導体なら、
AI需要 → 設備投資 → 半導体サイクル
を考えます。
製薬なら、
新薬候補 → 臨床試験 → 承認 → 大型薬化 → 特許切れ → 次の新薬
というサイクルを考える。
同じ株式投資でも、業界によって見るべきポイントが大きく違います。
製薬株とは異なる成長サイクルを持つ半導体業界については、NVIDIAから日本企業まで「どこで利益が生まれるのか」をこちらの記事で整理しています。
半導体業界の仕組みを初心者向けに解説
今後、第一三共・武田薬品・大塚HD・中外製薬の4社について、業績・PER・配当・新薬パイプラインを比較して「今投資するならどこが面白いのか」を調べてみるのも面白そうです。
※本記事は特定の銘柄の購入・売却を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。
【参考資料・公式サイト】
・第一三共株式会社「株主・投資家の皆さま」
・武田薬品工業株式会社「IR情報」
・大塚ホールディングス株式会社「株主・投資家の皆さま」
・中外製薬株式会社「IR情報」
※各社の業績、研究開発、新薬パイプライン等については、各社が公表するIR資料・決算資料等も参考にしています。




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