最近の企業ニュースを見ていると、一見まったく関係のない業界で、よく似た動きが起きています。
住宅大手の大和ハウス工業は、新築戸建てについて23道県で新規受注から撤退し、東京・大阪など都市部へ営業人員を集中させる方針を打ち出しました。
さらに自由設計の注文住宅については、原則として建物価格5,000万円以上の高価格帯に絞り込むとされています。
物流大手のヤマトホールディングスでも、低採算の荷物を抑制し、荷物の「量」よりも収益性を重視する方向へ転換しています。
そして銀行でも、長年続いた超低金利の住宅ローン競争から、金利上昇によって貸出量だけではなく採算を意識する時代へ変わりつつあります。
業界はまったく違います。
しかし3社・3業界の動きを並べてみると、共通するキーワードが見えてきます。
それが、
「量を追う経営」から「利益を選ぶ経営」への転換
です。
今回は大和ハウスを中心に、ヤマト、銀行の住宅ローンまで含めて、日本企業で何が起きているのかを考えてみます。
大和ハウスはなぜ23道県から撤退するのか
今回、大和ハウスは新築戸建ての営業体制を大きく見直します。
報道によると、2027年4月をめどに23道県で新築戸建ての新規受注から撤退し、東京・大阪など需要の大きい都市部へ営業人員を集中させる方針です。
一見すると、
「大和ハウスが住宅事業を縮小する」
ようにも見えます。
しかし、今回の戦略は単なる縮小とは少し違います。
大和ハウスは全国で一律に住宅を売るのではなく、
需要の弱い地域
↓
新規受注を縮小
需要の強い都市部
↓
営業人員を集中
という「選択と集中」を進めます。
つまり、
売れる戸数を最大化するより、限られた人員を利益の出やすい地域へ集中する
という戦略です。
注文住宅を5000万円以上に絞る
もう一つ大きな変化が、注文住宅の高価格帯シフトです。
大和ハウスは自由設計の注文住宅について、原則として建物価格5,000万円以上へ絞り込む方針です。
さらに1億円を超える高級住宅の販売も拡大するとされています。
これは単なる値上げではありません。
狙う顧客層そのものを変える戦略です。
これまで、
幅広い価格帯
↓
幅広い顧客
↓
販売戸数を確保
だったものを、
高価格帯
↓
高所得層・富裕層
↓
1戸当たりの利益を確保
へ変えていきます。
なぜ戸数より利益なのか
背景には、住宅業界を取り巻く厳しい環境があります。
主な要因は、
・人口減少
・地方の住宅需要減少
・建築資材価格の上昇
・人件費上昇
・建設技能者不足
・物流費上昇
です。
住宅需要は減っているのに、住宅を建てるコストは上がっています。
そうなると、
「たくさん売れば利益が増える」
とは限らなくなります。
例えば、
【これまで】
売上100
-コスト80
=利益20
だった事業が、
【コスト上昇後】
売上100
-コスト95
=利益5
になれば、販売戸数を維持しても利益は残りません。
それなら、
売上90
-コスト65
=利益25
の方が企業経営としては合理的です。
つまり、
売上高や数量を多少減らしてでも、利益率を改善する
という考え方です。
実はヤマトも同じ方向へ動いている
この考え方は住宅業界だけではありません。
物流大手のヤマトホールディングスでも、非常によく似た動きが起きています。
ヤマトはこれまで、
荷物の取扱個数を増やす
ことが成長の一つの指標でした。
しかしドライバー不足や人件費、燃料費などの上昇によって、単純に荷物を増やせばよい時代ではなくなっています。
採算の悪い荷物を増やせば、
忙しくなるのに利益が増えない
ということが起こります。
そこでヤマトは、低採算の荷物を抑制し、顧客ごとの収益性を重視する方向へ転換しています。
整理すると、
【以前】
荷物をたくさん獲得
↓
取扱個数を増やす
↓
売上拡大
【現在】
低採算荷物を抑制
↓
適正な価格を確保
↓
高採算顧客・分野へ集中
↓
利益率改善
です。
大和ハウスと非常によく似ています。
大和ハウスとヤマトの共通点
2社を並べると、さらに分かりやすくなります。
| 大和ハウス | ヤマトHD | |
|---|---|---|
| 従来 | 全国で住宅販売 | 荷物量を拡大 |
| 問題 | 地方需要減・建築費上昇 | 人件費・燃料費上昇 |
| 不採算分野 | 地方・低価格住宅 | 低採算荷物 |
| 対策 | 23道県撤退 | 低採算荷物抑制 |
| 集中先 | 都市部・高価格住宅 | 高採算顧客・分野 |
| 重視する指標 | 戸数→利益 | 個数→利益 |
つまり、
大和ハウス=「住宅戸数より利益」
ヤマト=「荷物個数より利益」
です。
銀行の住宅ローンも同じ流れ
さらに、この流れは銀行にも見ることができます。
長い超低金利時代、住宅ローン市場では激しい金利競争が続いてきました。
銀行にとって住宅ローンは、
低金利でも大量に貸して顧客を獲得する
という性格の強い商品でした。
しかし、日銀の金融政策正常化によって金利が上昇すれば、状況は変わります。
銀行側から見ると、
超低金利時代
↓
金利を下げて顧客獲得
↓
貸出残高を増やす
という競争から、
金利上昇
↓
調達コストも上昇
↓
適正な貸出金利を設定
↓
収益性・信用リスクを重視
する方向へ変わっていきます。
銀行も、
「とにかく住宅ローンを増やす」から「採算の取れる融資をする」
方向へ変わる可能性があります。
金利上昇は銀行の住宅ローンだけでなく、企業の資金調達や株価のPERにも影響します。
「金利上昇がなぜ株価のリスクになるのか」については、こちらの記事で詳しく整理しています。
▶ AIブーム×金利上昇で日本株はどうなる?今後の株式市場を考える
3つを並べると、日本企業の変化が見えてくる

大和ハウス、ヤマト、銀行。
業界はまったく違います。
しかし3つを並べると、共通する流れがはっきりします。
| 業界 | 以前 | 現在 |
|---|---|---|
| 大和ハウス | 住宅戸数を増やす | 高収益住宅へ集中 |
| ヤマト | 荷物個数を増やす | 低採算荷物を抑制 |
| 銀行 | 住宅ローン残高を増やす | 金利・採算を重視 |
つまり3つに共通しているのは、事業を縮小することそのものが目的ではなく、「利益の薄い量」を追うことをやめ、限られた人材や資本をより収益性の高い分野へ振り向けようとしている点です。
なぜ今、日本企業は「量より利益」なのか
背景には、日本経済そのものの構造変化があります。
大きく分けると4つです。
① 人口減少
② 人手不足
③ インフレ
④ 金利上昇
これらが同時に進んでいます。
以前の日本は、
人口増加
+
人件費が低い
+
物価が上がらない
+
超低金利
という環境でした。
この時代には、
安く大量に提供する
というビジネスモデルが成り立ちやすかったのです。
ところが現在は、
人口減少
+
人手不足
+
物価上昇
+
金利上昇
へ変わっています。
企業からすると、
「安く大量に提供するモデル」を維持するのが難しくなっている
わけです。
この「販売数量より1件当たりの利益を重視する」という動きは、ほかの業界でも見られます。
ヤマハ発動機もインド二輪市場で高価格帯を強化しており、「販売台数だけでなく1台当たり利益」が重要になっています。
▶ ヤマハ発動機の「脱・大衆車」戦略|販売台数より1台当たり利益へ
「安い日本」から変わり始めている
ここには、もう一つ重要な変化があります。
長いデフレ時代、日本では
安いこと=競争力
と考えられてきました。
安い住宅。
安い宅配料金。
安い住宅ローン。
消費者にとってはありがたい一方、企業側では利益率が低くなりやすく、賃金を上げる余力も生まれにくくなります。
現在は、
適正な価格を取って利益を確保する
方向へ、少しずつ企業行動が変わり始めています。
投資家は「売上減=悪い会社」と考えない
今回の3社の事例は、株式投資でも重要なヒントになります。
投資初心者の場合、
売上が増えた=良い会社
売上が減った=悪い会社
と考えがちです。
しかし、必ずしもそうではありません。
例えば、
【改革前】
売上高 1,000億円
営業利益 20億円
営業利益率 2%
から、
【改革後】
売上高 900億円
営業利益 36億円
営業利益率 4%
になったとします。
売上高は10%減少しています。
しかし営業利益は80%増えています。
企業価値という観点では、後者の方が魅力的な場合があります。
企業を見るとき、「売上が増えているか」だけでなく「どれだけ利益を残せているか」という視点も重要です。
今回取り上げた「量より利益」という考え方をもう少し深く知りたい方には、
『売上最小化、利益最大化の法則』も参考になります。
▶ 『売上最小化、利益最大化の法則』をAmazonで見る
大和ハウスを見るときも「販売戸数」だけでは不十分
大和ハウスも同じです。
今後、23道県から撤退すれば、戸建住宅の販売戸数は減る可能性があります。
しかし、
・平均販売単価
・営業利益
・営業利益率
・ROE
・ROIC
が改善すれば、今回の戦略は成功と評価できます。
特に注目したいのは営業利益率です。
ヤマトも「荷物が減った=失敗」ではない
ヤマトも同様です。
低採算荷物を抑制すれば、取扱個数は減ります。
しかし、
・荷物1個当たり単価
・顧客別採算
・営業利益率
・配送効率
が改善すれば、企業としてはむしろ健全になります。
銀行も貸出残高だけを見ない
銀行の場合も、
住宅ローン残高がどれだけ増えたか
だけではなく、
・貸出金利
・預貸金利ざや
・信用コスト
・ROE
などを見る必要があります。
金利上昇局面では、銀行の収益構造そのものが変わる可能性があります。
3社に共通する「選択と集中」
今回の内容を一枚の流れにすると、こうなります。
人口減少
+
人手不足
+
インフレ
+
金利上昇
↓
「薄利多売」が難しくなる
↓
価格を適正化
↓
不採算地域・商品・顧客を縮小
↓
限られた人材・資本を高収益分野へ集中
↓
「量」より「利益率・資本効率」
これは、今後ほかの業界でも起こる可能性があります。
大和ハウスは「成長を諦めた」のではない
今回の大和ハウスについて特に重要なのは、
「23道県撤退=成長を諦めた」
とは限らないということです。
むしろ、
利益の薄い市場で無理に競争することをやめ、成長する市場へ資源を移す
と考える方が自然です。
大和ハウスは戸建住宅だけではなく、
・賃貸住宅
・マンション
・商業施設
・物流施設
・事業施設
・海外事業
など幅広い事業を持っています。
だからこそ、国内戸建て市場に固執する必要がありません。
今後の大和ハウスで確認したいポイント
今後の決算では、次の項目を確認したいところです。
✓ 戸建住宅の販売戸数
✓ 1戸当たり平均販売単価
✓ 戸建住宅部門の営業利益率
✓ 5,000万円以上の高価格住宅の販売状況
✓ 1億円超住宅の販売状況
✓ 物流施設・商業施設・海外事業の成長
✓ ROE・ROICの改善
販売戸数が減っても、利益率が上がれば戦略は成功です。
反対に、戸数も減り、利益率も改善しなければ注意が必要です。
まとめ|大和ハウス・ヤマト・銀行が示す日本企業の新しい姿
今回見てきた、
大和ハウス
ヤマト
銀行
は、まったく違う業界です。
しかしその経営戦略には、非常によく似た変化があります。
【これまで】
人口増加・デフレ・低金利
↓
市場拡大
↓
安く大量に提供
↓
売上・数量・シェア重視
【これから】
人口減少・人手不足・インフレ・金利上昇
↓
市場を選別
↓
価格適正化
↓
不採算地域・顧客・商品を縮小
↓
成長分野へ人材・資本を集中
↓
利益率・ROE・ROIC重視
大和ハウスは、
「住宅戸数より利益」
ヤマトは、
「荷物個数より利益」
銀行は、
「貸出量だけでなく採算」
へ。
この3つのニュースは、それぞれ別の出来事に見えます。
しかし一本につなげると、
日本企業が「量を追う経営」から「利益を選ぶ経営」へ移行し始めている
という大きな変化が見えてきます。
株式投資でも今後は、
「売上高や数量が増えているか」だけではなく、「限られた人材と資本で、どれだけ利益を生み出せているか」
を見ることが、ますます重要になるのではないでしょうか。
金利上昇局面では、企業が「どれだけ売ったか」だけでなく、投じた資本からどれだけ利益を生み出しているかも重要になります。
ROEや資本コストから「企業の稼ぐ力」を見る方法については、こちらの記事で詳しく解説しています。
▶ 日本株は「稼ぐ力」が重要に|金利上昇で注目したいROEと資本コスト
「利益率だけでなくROICまで見ると、企業の何が分かるの?」という方には、ROICを基礎から学べる入門書も参考になります。
企業が限られた資本をどの事業へ振り向けるのかという、今回の記事の「選択と集中」を理解するうえでも役立ちます。
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※本記事は情報提供を目的としており、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。
参考資料・公式リンク
本記事の作成にあたり、以下の公式情報などを参考にしています。
・大和ハウス工業|IR情報
・大和ハウスグループの事業と強み
・大和ハウス工業|統合報告書
・ヤマトホールディングス|IR情報
・ヤマトホールディングス|ファクトデータ
・ヤマトホールディングス|2026年3月期 通期連結業績予想の修正
・日本銀行|金融システムレポート
・日本経済新聞「大和ハウスの注文住宅、最低価格5000万円に コスト高で23道県は撤退」
・日本経済新聞「ヤマトホールディングス、物流から見る景気 高額品減り、荷物小型に」
・日本経済新聞「長期金利3%時代の住宅ローン、大手行は低金利競争に幕」





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