円高になると日本株は下がる――。
以前から株式市場では、このようなイメージが強くありました。
実際に、ここ数日の円高局面では私の保有している多くの日本株が下落しているように思います。
特にトヨタをはじめとする自動車や機械などの輸出企業は、「円安=業績にプラス」「円高=業績にマイナス」と考えられることが多くあります。
しかし私は最近、この関係が以前ほど単純ではなくなっているのではないかと感じています。
その理由の一つが、日本企業のグローバル化と現地生産の拡大です。
海外で稼いだ資金をすべて日本へ戻すのではなく、現地通貨のまま人件費や仕入れ、設備投資などに使う企業が増えています。
それならば、「円高=日本企業に全面的なマイナス」という従来の考え方は、少し見直す必要があるのではないでしょうか。
今回は、円高が現在の日本株にどのような影響を与えるのか、そして逆に円高が追い風になる業種について考えてみます。
なぜ「円高=日本株安」と言われてきたのか

まず基本的な仕組みを確認してみます。
例えば日本企業がアメリカで100万ドルの利益を稼いだとします。
1ドル160円なら、
100万ドル × 160円 = 1億6,000万円
です。
ところが1ドル150円まで円高になると、
100万ドル × 150円 = 1億5,000万円
になります。
現地では同じ100万ドルを稼いでいるにもかかわらず、日本円に換算した利益は1,000万円減少します。
海外売上高の大きい企業ほど、この影響を受けやすくなります。
そのため、
円安 → 輸出企業に追い風
円高 → 輸出企業に逆風
という考え方が定着してきました。
この「外貨で利益が出ていても、円高になると円換算額が減る」という考え方は、海外企業だけでなく米国債などの外貨資産にも共通します。
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しかし日本企業は昔とは違う
ここで私が注目したいのが、日本企業の海外事業の変化です。
以前は、
日本で生産
↓
海外へ輸出
↓
ドルなどで販売
↓
利益を日本円へ換算
というビジネスモデルが中心でした。
この場合、為替変動の影響をかなり直接的に受けます。
しかし現在のグローバル企業は違います。
例えば、
海外で生産
↓
海外で販売
↓
ドルで売上を得る
↓
ドルで人件費を払う
↓
ドルで部品を購入する
↓
ドルで設備投資する
という形です。
つまり、売上だけでなく費用も現地通貨で発生するようになっています。
これによって為替変動による実際の事業への影響をある程度抑えることができます。
「海外で稼ぎ、海外で使う」という構造です。
それでも円高の影響がなくなるわけではない
ここは重要です。
現地生産が増えたからといって、
「円高はもう関係ない」
というわけではありません。
大きな理由が、連結決算における円換算です。
例えばアメリカ子会社が10億ドルの利益を上げた場合、
1ドル160円なら1,600億円。
1ドル150円なら1,500億円です。
アメリカでの販売台数も利益率も全く変わっていなくても、日本企業の連結決算では利益が小さく見えます。
したがって現在のグローバル企業については、
「円高による事業そのものへの影響は昔より小さくなったが、決算上の為替影響は依然として残る」
と考えるのが分かりやすいでしょう。
円高で不利になりやすい業種
まず影響を受けやすいのは、海外売上比率の高い企業です。
代表的なのは、
・自動車
・機械
・半導体製造装置
・電子部品
・一部の総合商社
などです。
特に海外で大きな利益を上げている企業の場合、円高になると海外利益の円換算額が減少します。
ただし同じ自動車会社でも、海外生産比率、現地調達比率、為替ヘッジなどによって影響は異なります。
そのため、単純に「自動車だから円高に弱い」と判断するのではなく、その会社がどこで作り、どこで売り、どの通貨で費用を支払っているのかを見ることが重要になってきています。
同じ総合商社でも、資源・エネルギーへの依存度や国内事業の比率によって為替の影響は異なります。非資源・川下戦略に強みを持つ伊藤忠については、こちらの記事で詳しく分析しています。
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一方で「円高メリット企業」もある
円高は悪いことばかりではありません。
むしろ日本国内には、円高によってコスト低下の恩恵を受ける企業もたくさんあります。
代表的なのが、
| 業種 | 円高の影響 | 主な理由 |
|---|---|---|
| 食品 | プラス要因 | 小麦・肉・油脂などの輸入負担低下 |
| 外食 | プラス要因 | 輸入食材の調達コスト低下 |
| 小売 | プラス要因 | 海外商品の仕入れ価格低下 |
| 電力 | プラス要因 | LNG・石炭などの輸入負担低下 |
| 都市ガス | プラス要因 | LNGなどの輸入負担低下 |
| 航空 | プラス要因 | 燃料などドル建て費用の負担低下 |
| 通信 | 比較的小さい | 国内事業中心 |
| 鉄道 | 比較的小さい | 国内事業中心 |
日本は資源や食料の多くを海外から輸入しています。
そのため円高になると、同じ1ドルの商品を購入するために必要な円が少なくなります。
これは輸入企業にとって大きなメリットです。
外食企業は円高メリットを受けやすい?
特に分かりやすいのが飲食業界です。
外食企業では、
・牛肉
・豚肉
・小麦
・食用油
・水産物
・ジャガイモ
・コーヒー豆
など、海外から調達する原材料が少なくありません。
円安局面では、原材料価格が変わらなくても円換算した仕入れ価格が上昇します。
反対に円高になれば、仕入れコストを抑えられる可能性があります。
近年は人件費や物流費も上昇していますので、円高だけで利益が大幅に増えるとは限りません。
それでも輸入原材料の比率が高い企業にとって、円高は明確な追い風の一つになります。
エネルギー企業にも円高はプラス?
もう一つ注目したいのが電力・ガスです。
日本は、
・LNG(液化天然ガス)
・原油
・石炭
など多くのエネルギー資源を海外から輸入しています。
これらはドル建てで取引されることが多いため、円高になると円ベースでの輸入負担が軽くなります。
例えば100ドルの商品なら、
1ドル160円 → 16,000円
1ドル150円 → 15,000円
です。
同じ100ドルでも1,000円安く購入できます。
ただし電力・ガス料金には燃料価格などを料金へ反映する仕組みがあります。
そのため、
円高=そのまま電力・ガス会社の利益増加
とは限りません。
それでも資源輸入国である日本全体から見れば、円高によるエネルギー輸入価格の低下はプラス材料です。
「円高=日経平均下落」でもTOPIXは違うかもしれない
ここも今回の円高を見る上で面白いポイントだと思います。
日経平均株価は、値がさ株や半導体関連企業など一部企業の値動きの影響を比較的大きく受けます。
一方TOPIXは、日本市場全体をより広く反映する指数です。
円高によって、
半導体
自動車
機械
などが売られても、
食品
小売
電力・ガス
鉄道
通信
その他内需企業
などが買われれば、TOPIX全体への影響はある程度相殺される可能性があります。
つまり今後は、
「円高だから日本株を売る」
ではなく、
「円高によって日本株の中でどの業種に資金が移動するのか」
を見ることが重要になってくるのではないでしょうか。
為替だけでなく、現在の日本株では「金利」も重要な材料です。金利上昇が日本株や企業業績に与える影響については、こちらの記事で詳しく整理しています。
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円高は「日本株売り」より「セクターローテーション」に注目
私は今回の円高について、日本株全体に対する悪材料としてだけ見る必要はないと考えています。
むしろ注目したいのは、
輸出・海外売上型企業 → 内需・輸入型企業
という資金移動です。
円安が続いていた時期には、
「海外で稼ぐ企業」
が注目されました。
しかし円高が進めば、
「海外から安く仕入れられる企業」
が有利になる可能性があります。
為替相場の変化によって、企業間の優位性が入れ替わるわけです。
投資家として確認したい5つのポイント
今後企業を見る際には、「円安メリット企業」「円高メリット企業」という分類だけでなく、次の点を確認していきたいと思います。
① 海外売上比率はどのくらいか
② 海外生産比率はどのくらいか
③ 原材料を海外からどの程度輸入しているか
④ 会社が設定している想定為替レートはいくらか
⑤ 円高・円安が1円進んだ場合、営業利益にどの程度影響するか
特に決算資料に記載される想定為替レートは重要です。
実際の為替が会社想定より円安なら業績上振れ要因、反対に想定より円高なら下振れ要因になる可能性があります。
まとめ|「円高=日本株安」だけでは判断できない時代へ
かつての日本企業は、日本で製造して海外へ輸出するビジネスモデルが中心でした。
そのため円高は、輸出企業にとって非常に大きな問題でした。
しかし現在は、多くのグローバル企業が海外生産・海外調達・海外投資を行っています。
「海外で稼ぎ、海外で使う」事業構造が広がったことで、円高が実際の事業収益に与える影響は以前より複雑になっています
もちろん海外利益を円換算する際の影響は残ります。
しかし一方では、食品、外食、小売、電力・ガスなど、円高による輸入コスト低下の恩恵を受ける企業もあります。
だからこそ、
円高=日本株に悪い
と一括りにするのではなく、
円高によって「どの企業から、どの企業へ利益が移動するのか」を考える。
この視点が、これからの日本株投資ではより重要になるのではないでしょうか。
※本記事は為替と企業業績の関係について筆者が調べた内容をまとめたものであり、特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。
参考資料・公式サイト
日本銀行の企業物価指数の解説でも、外貨建て価格を円換算する際には為替相場の変動が反映されることが説明されています。
日本銀行|企業物価指数(2020年基準)のFAQ
電気料金については、資源エネルギー庁が原油・LNG・石炭の価格と為替を反映する「燃料費調整制度」の仕組みを詳しく説明しています。
資源エネルギー庁|燃料費調整制度について

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