毎日の通勤。
「片道45分くらいなら普通」
「みんな通っているから仕方がない」
そう考えている人も多いのではないでしょうか。
しかし、1日単位ではそれほど長く感じなくても、10年、20年、30年と積み重ねると、通勤に使う時間は驚くほど大きくなります。
最近話題になった「通勤時間の生涯コスト」の試算では、神奈川県の通勤時間は全国でも特に長く、生涯では約1万6,300時間。これを労働時間に換算すると、実に約8.3年分に相当するとされています。
今回は、
- 通勤時間は人生でどれほどの時間になるのか
- 往復1.5時間なら年間で何時間になるのか
- 満員電車はなぜ疲れるのか
- 通勤時間を「お金」と同じように考えるべき理由
- 通勤ストレスを減らすにはどうすればよいのか
について考えてみます。
※本記事で紹介する数値には、各調査・試算で前提条件が異なるものがあります。
通勤時間の全国平均は往復1時間19分

総務省統計局「令和3年社会生活基本調査」を基にしたスキルアップ研究所の試算によると、通勤・通学時間の全国平均は1日あたり往復1時間19分です。
都道府県別では、
神奈川県:1時間40分
千葉県:1時間35分
東京都:1時間35分
埼玉県:1時間34分
となっており、首都圏の通勤時間の長さが目立ちます。
一方、最も短い山形県・宮崎県は56分。
神奈川県の100分とは約1.8倍の差があります。
つまり、同じ8時間働いている会社員でも、住んでいる場所や職場によって「仕事のために拘束される時間」は大きく違うということです。
神奈川県では「生涯8.3年分」が通勤に?
特に興味深いのが、生涯通勤時間の試算です。
スキルアップ研究所では、
年間出社日数:245日
1日の労働時間:8時間
勤務期間:25歳~65歳の40年間
という条件で計算しています。
神奈川県の往復100分を40年間続けると、
約1万6,300時間
を通勤に使うことになります。
これを「1日8時間・年間245日働く」という労働時間に換算すると、約8.3年分です。
ただし、ここは重要なポイントです。
「人生のうち丸々8.3年間を電車の中で過ごす」という意味ではありません。
あくまで、通勤時間を年間の労働時間に換算すると「約8.3労働年分」に相当する、という意味です。
それでも、40年間の総労働時間に対して約21%に相当する時間が通勤になるという試算は、かなり大きな数字ではないでしょうか。
往復1.5時間通勤なら年間360時間
では、もう少し身近な「往復1.5時間」の通勤で考えてみましょう。
年間240日出勤すると仮定すると、
1.5時間 × 240日 = 360時間
です。
8時間労働に換算すると、
360時間 ÷ 8時間 = 45日
つまり、毎年約45労働日分を通勤に使っている計算になります。
さらに40年間続ければ、
360時間 × 40年 = 1万4,400時間
です。
8時間×年間240日の労働時間で換算すると、約7.5年分。
往復90分という、一見すると珍しくない通勤でも、長期間積み重ねれば非常に大きな時間になります。
通勤時間は「給料の出ない拘束時間」と考えることもできる
ここで少し視点を変えてみます。
たとえば、
勤務時間:8時間
休憩:1時間
通勤:往復1.5時間
という会社員なら、仕事そのものは8時間でも、
「仕事のために自宅を離れている時間」は約10.5時間になります。
さらに残業が1時間あれば11.5時間です。
このため転職や再就職を考える場合、
「給料はいくらか」
だけではなく、
「その給料を得るために1日何時間拘束されるのか」
を見ることが重要です。
年収が少し高くても、毎日2時間の通勤が必要なら、自由時間という別の資産をかなり使っていることになります。
満員電車は「時間」だけでなく「ストレス」の問題
さらに重要なのが、通勤時間の質です。
同じ片道45分でも、
座って本を読める45分
と、
身動きできない満員電車に立ち続ける45分
では負担がまったく違います。
過去にCNET Japanが紹介した英国の調査では、通勤者のストレスが、臨戦態勢の戦闘機パイロットや機動隊員より強かったという結果が報じられています。
非常に印象的な結果ですが、これは2004年に報じられた125人規模の古い調査です。
したがって、「満員電車=必ず戦場以上のストレス」と断定するのではなく、「強いストレスを示した調査例がある」と理解するのが適切でしょう。
なぜ満員電車はこれほど疲れるのか
満員電車には、ストレスを生みやすい要素がいくつも重なっています。
- 他人との距離が極端に近い
- 自由に動けない
- 立ったまま同じ姿勢が続く
- 暑さや湿度、不快な臭いなどがある
- 電車が遅れる可能性がある
- 遅刻への不安がある
- 座れるかどうか分からない
- 自分で混雑状況をコントロールできない
特に厄介なのが「自分で状況を変えにくい」という点です。
仕事が始まる前からこうした環境に30分、40分、1時間と置かれれば、会社に到着した時点ですでに疲れてしまう人がいても不思議ではありません。
満員電車による経済損失は年間3,000億円以上?
リビン・テクノロジーズの記事では、過去の試算を基に、満員電車による経済損失について紹介しています。
記事で紹介されている内訳には、
- 遅延による経済損失:約1,300億円
- 肉体的・精神的ストレスによる損失:約1,200億円
- 身動きできず何もできないことによる損失:約740億円
などがあります。
単純合計すると3,000億円を超える規模です。
ただし、これも現在の日本全体で毎年正確に3,000億円の損失が発生していると確定した統計ではなく、過去のデータや一定の仮定に基づく試算です。
それでも、満員電車が単なる「個人の我慢」の問題ではなく、社会全体の生産性にも関係する問題だという視点は興味深いところです。
長時間通勤は幸福度とも無関係ではない
経済産業研究所(RIETI)の研究では、日本の労働者を対象に通勤時間やテレワークなどについて分析しています。
その結果、労働者は「勤務時間が長くなること」以上に「通勤時間が長くなること」を強く嫌う傾向が示されています。
また、テレワークを行っている人は、賃金や仕事満足度が高い傾向も報告されています。
通勤は給料を直接生み出す時間ではありません。
それにもかかわらず、自由時間を削り、場合によっては心身にも負担を与えます。
だからこそ「年収」だけでなく「通勤時間」も、仕事選びの重要な条件として考える必要があります。
通勤時間を「時給」で考えてみる
たとえば、
年収300万円
年間勤務240日
1日8時間勤務
とします。
単純な労働時間は、
8時間 × 240日 = 1,920時間
です。
年収300万円なら、
300万円 ÷ 1,920時間 = 約1,563円
となります。
ところが往復1.5時間の通勤を加えると、
(8時間+1.5時間)×240日=2,280時間
です。
すると、
300万円 ÷ 2,280時間 = 約1,316円
まで下がります。
もちろん通勤時間は法律上の労働時間とは別ですが、「自分の人生を何時間使ってこの収入を得ているか」という考え方では、とても参考になる数字です。
年収30万円アップと「通勤時間30分短縮」ならどちらを選ぶ?
ここが仕事選びでは意外に重要です。
仮に転職によって通勤時間を往復30分短縮できたとします。
年間240日なら、
30分 × 240日 = 120時間
です。
年間120時間の自由時間が戻ってきます。
10年間なら1,200時間です。
年収が10万円、20万円高い会社を選ぶために、この時間を手放す価値があるのか。
逆に多少年収が下がっても、家から近い会社を選ぶことで、睡眠、家族との時間、趣味、副業、運動などに使える時間が増えるのであれば、それも一つの「リターン」と考えることができます。
投資では、お金を生み出す資産を大切にします。
しかし、人生で最も取り戻すことのできない資産は「時間」なのかもしれません。
それでも通勤が必要なら「時間の質」を変える
もちろん、すべての人が職場の近くに引っ越したり、テレワークに切り替えたりできるわけではありません。
そこで重要になるのが、通勤時間そのものをゼロにするだけではなく、「通勤時間の質」を改善するという考え方です。
- 可能なら混雑する時間帯をずらす
- フレックスタイムを利用する
- 始発電車など座れるルートを探す
- 乗り換え回数の少ない経路を選ぶ
- 座れるなら読書や勉強時間にする
- 音声学習やPodcastを利用する
- ブログや副業のアイデアをスマホにメモする
- 週数回でもテレワークを利用する
特に「座れるかどうか」は大きな違いです。
同じ90分でも、満員電車で立ち続ける90分と、座って読書や勉強ができる90分では、人生コストとしての意味がかなり変わってきます。
週5日勤務と週3日勤務では通勤コストも大きく違う
往復1.5時間でも、出勤日数によって負担は大きく変わります。
週5日なら年間約360時間。
週3日なら年間約216時間。
週2日なら年間約144時間です。
年齢を重ねて働き方を変える場合、「1日何時間働くか」だけではなく「週に何回通勤するか」も重要なポイントになります。
たとえば同じ週24時間勤務でも、
週3日×8時間
と
週5日×約5時間
では、通勤回数が違います。
往復1.5時間なら、週3日の方が週2回分、つまり毎週3時間の通勤を減らせます。
年間ではかなり大きな差になります。
通勤時間を減らす方法は、職場の近くに住むことだけではありません。週3日勤務や時短勤務など「働き方そのもの」を変えることでも、自由に使える時間は増やせます。
時短勤務が企業側にもたらすメリットについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
50代以降は、「いくら稼ぐか」だけでなく「どのように時間を使いながら働くか」も大切になってきます。旅と仕事を組み合わせる「おてつ旅」については、こちらの記事でも実体験を交えて紹介しています。
時間の使い方を見直したい方へ
通勤時間をきっかけに、毎日の「時間の使い方」を見直してみるのもおすすめです。
『ハーバード、スタンフォード、科学的に証明された時間をムダにしない人の習慣』は、限られた時間を有効に使うヒントを学べる一冊です。
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まとめ|通勤時間も「人生のコスト」として考えてみよう
毎日の通勤は、あまりにも当たり前なので、その時間をコストとして意識することは少ないかもしれません。
しかし、数十年単位で考えると決して小さな時間ではありません。
神奈川県のケースでは、生涯通勤時間が約1万6,300時間、労働時間換算で約8.3年分になるという試算もあります。
往復1.5時間の通勤でも、年間240日なら約360時間。
40年間なら約1万4,400時間です。
さらに満員電車の場合は、単なる時間だけではなく、肉体的・精神的なストレスも加わります。
仕事を選ぶときには、
「年収はいくらか」
だけではなく、
「その年収を得るために、自分の人生を何時間使うのか」
という視点を持ってもよいのではないでしょうか。
お金は増やすことができます。
しかし、使った時間を後から取り戻すことはできません。
資産形成を考えるのと同じように、「自分の時間をどこに配分するか」を考えることも、豊かな人生をつくるための大切な選択だと思います。
参考資料・参考記事
・総務省統計局「令和3年社会生活基本調査」
・経済産業研究所(RIETI)「長時間通勤とテレワーク」
・総務省統計局|47都道府県ランキング
・BUSINESS INSIDER JAPAN
・リビン・テクノロジーズ株式会社
・CNET Japan



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