最近、ガソリンスタンドの価格表示を見て、
「軽油って、こんなに高かったかな?」
と思ったことはないでしょうか。
以前はレギュラーガソリンと軽油には、それなりの価格差がある印象でした。
しかも2026年4月には、軽油引取税の「当分の間税率」、いわゆる暫定税率が廃止されています。
それなのに、なぜ軽油は思ったほど安くならないのでしょうか。
調べてみると、単純に「原油が高いから」だけでは説明できないことが分かります。
今回は、軽油とガソリンの価格差が縮小している理由を、投資初心者にも分かりやすく整理してみます。
そもそもガソリンと軽油は同じ原油から作られる

まず押さえておきたいのが、ガソリンと軽油はどちらも原油から作られるということです。
製油所では原油を加熱し、沸点の違いを利用して、
・LPガス
・ナフサ
・ガソリン
・灯油
・軽油
・重油
などに分けていきます。
その後、それぞれ脱硫や改質、分解、調合などの工程を経て製品になります。
ここで私が最初に疑問に思ったのが、
「最近軽油が高いのは、ガソリンより精製に手間がかかるからなのか?」
ということでした。
しかし、そう単純ではありません。
ガソリンにもオクタン価を高めるための改質や調合などが必要ですし、軽油にも脱硫などの処理が必要です。
つまり、
「軽油のほうが精製コストが高いから、ガソリンとの差が縮まった」
と考えるのは適切ではありません。
重要なのは、製油所ではガソリン、軽油、灯油などが同時に作られる「連産品」だということです。
軽油が不足したからといって、明日から軽油だけを大量に増産できるわけではありません。
日本ではガソリンのほうが軽油より需要が多い
次に疑問に思ったのが、
「トラックやバス、農業機械などを考えると、実は軽油のほうがたくさん使われているのでは?」
ということです。
しかし、日本国内では現在もガソリンの需要のほうが大きくなっています。
経済産業省の2025~2029年度石油製品需要見通しによると、2025年度の需要見通しは、
ガソリン:約4,240万kL
軽油:約3,035万kL
となっています。
つまり、日本ではガソリン需要が軽油需要の約1.4倍あります。
一方で興味深いのは、今後の減少スピードです。
2025年度から2029年度にかけて、
ガソリン:約4,240万kL → 約3,859万kL
軽油:約3,035万kL → 約2,917万kL
と予測されています。
ガソリンは約9%減る一方、軽油は約4%の減少にとどまります。
ガソリンは乗用車の低燃費化やハイブリッド車・EVの普及などによって需要が減少しやすい一方、軽油は物流を担うトラックなどで大量に使用されます。
経済活動を続ける以上、簡単には使用量を減らせない燃料なのです。
軽油税が下がったのに、なぜ安く感じないのか
2026年4月1日、軽油引取税の「当分の間税率」が廃止されました。
従来の軽油引取税は1Lあたり32.1円で、その内訳は、
本則税率:15.0円
上乗せ分:17.1円
でした。
一方、ガソリンには53.8円/Lの揮発油税・地方揮発油税がかかり、そのうち上乗せ分は25.1円でした。
ここだけを見ると、
「軽油は17.1円も安くなるはずでは?」
と思います。
しかし政府は税率廃止に先立ち、価格の急変を防ぐため、補助金を段階的に拡充していました。
最終的には、
ガソリン:25.1円/L
軽油:17.1円/L
と、それぞれの上乗せ税率に相当する補助が行われました。
つまり軽油の場合、
「17.1円の補助金」
から
「17.1円の減税」
へ切り替わった側面があります。
そのため、税制改正の日を境に店頭価格がさらに17.1円下がる、という仕組みではありませんでした。
さらにガソリンのほうが税負担の軽減幅が大きい
ここもガソリンと軽油の価格差を考えるうえで重要です。
上乗せ部分は、
ガソリン:25.1円/L
軽油:17.1円/L
でした。
その差は8円です。
そのため、他の条件がまったく同じなら、上乗せ税率の廃止・それに先行する同水準の補助は、ガソリンと軽油の価格差を以前より縮める方向に働きます。
しかし、最近の価格差縮小にはもう一つ重要な理由があります。
それが世界的な「軽油ショック」です。
世界では軽油の供給が逼迫している
2026年、世界の軽油市場で大きな問題になっているのがロシアの製油所です。
IEA(国際エネルギー機関)によると、ウクライナによるロシア製油所への攻撃が激しくなり、2026年6月にはロシアの製油所処理量が約20年ぶりの低水準まで落ち込みました。
2025年と比べてガソリン生産が約20%減少しているのに対し、ディーゼル生産は約30%減少したと推計されています。
つまり、
「ロシアの問題は軽油だけで、ガソリンには関係ない」
わけではありません。
ガソリンにも影響しています。
ただし、現時点ではディーゼル・軽油系燃料への影響がより強く出ています。
なぜ軽油のほうが影響を受けやすいのか
軽油は乗用車だけではありません。
トラック、バス、建設機械、農業機械など、経済活動を支えるさまざまな場所で使用されています。
特に物流では、
「軽油が高くなったから、トラックを半分走らせるのをやめよう」
とは簡単にはできません。
つまり、価格が上昇しても短期的には需要が減りにくい燃料です。
そこへロシアからの供給減少が重なりました。
IEAによると、2026年1~8月の世界の海上輸送による軽油・ディーゼル輸出量は前年同期比で約10%減少しています。
さらに8月には、ロシアと中東を合わせたディーゼル輸出量が前年同月比75%減となりました。
米国やアジアからの輸出増加だけでは完全には補えていません。
原油があっても軽油不足は起こる
ここが今回調べていて特に興味深かったポイントです。
「石油不足」と聞くと、
原油そのものが足りない
というイメージを持ちます。
ところが今回は少し違います。
原油があったとしても、それをガソリンや軽油などに加工する製油所の能力が不足すれば、石油製品は不足します。
しかも製油所では、
原油
↓
ガソリン
+
軽油
+
ジェット燃料
+
灯油
+
その他
というように複数の製品を同時に作ります。
軽油価格が上昇したからといって、ガソリンの生産をすべてやめて軽油を作ることはできません。
IEAによると、OECD諸国では高い製油所稼働率にもかかわらず、2026年6月のディーゼル生産量は前年並みにとどまりました。
IEAは、OECDの精製システムが中間留分の生産能力について実用上の限界に近づいている可能性を指摘しています。
原油価格だけでなく、日本まで原油を運ぶ「輸送コスト」も石油製品価格に影響します。中東情勢とタンカー運賃の関係については、こちらの記事で詳しくまとめています。
サウジ産原油の輸送費10倍で海運株はどうなる?中東情勢と商船三井「帆のLNG船」から今後を考えるサウジ産原油の輸送費が約10倍に。中東情勢やホルムズ海峡・紅海の混乱は、日本郵船・商船三井・川崎汽船など海運株にどう影響するのか。海運3社を実際に保有する筆者が、タンカー運賃や商船三井の「帆を付けたLNG船」も含め、海運株の今後を考えます。
製油所不足はガソリンにも影響する
もちろん世界的な精製能力不足は、ガソリンにも影響します。
IEAは2026年8月の石油市場報告で、ロシア製油所への攻撃や中東からの石油製品輸出の混乱などによって、ガソリンなどの軽質留分と、軽油などの中間留分の双方で市場が引き締まり、精製マージンが上昇していると報告しています。
つまり、
「製油所不足=軽油だけの問題」
ではありません。
ガソリンも軽油も影響を受けています。
ただし現在は、
ロシアからのディーゼル供給減少
+世界的な軽油・ディーゼル輸出減少
+物流など簡単には減らせない需要
+製油所が軽油だけを自由に増産できない
という条件が重なり、軽油の需給が特に厳しくなっているのです。
原油や軽油などのエネルギー価格上昇は、企業の輸送コストや物価にも波及します。こうしたインフレと金利、資産運用の関係についてはこちらで整理しています。
高金利時代の資産運用|株一辺倒で本当に大丈夫?国債も含めて考え直す時代へ高金利時代に入り、株式だけを見ていればよいのでしょうか。日経平均・TOPIX・ドル円を中心に見てきた私が、金利や国債利回り、債券価格にも注目するようになった理由を解説。変動10年国債や株・国債・現金の資産配分について考えます。
ガソリンとの価格差が縮んだ理由
ここまでを整理すると、最近ガソリンと軽油の価格差が小さくなっている理由が見えてきます。
大きく4つあります。
① ガソリンの上乗せ税率は25.1円、軽油は17.1円で、ガソリン側の負担軽減幅が大きかった
② 軽油はトラックなど物流に不可欠で、短期間では需要が減りにくい
③ ロシアや中東などからのディーゼル供給が減少している
④ 世界の製油所には、軽油だけを簡単に増産できないという制約がある
つまり、
「軽油税が下がったのに軽油が安くならない」
という現象は、税金だけを見ていては理解できません。
エネルギーや資源を見るときには、「資源があるか」だけでなく、それを生産・加工・輸送できるかという視点も重要です。AI時代に需要が急増している「銅」についても、同じような供給制約が注目されています。
「新たな石油」銅に世界のマネーが向かう理由|AI・データセンターで需要拡大、関連銘柄にも注目AI・データセンターの拡大で注目される銅。なぜ「新たな石油」と呼ばれるのか。電力網やEV、再生可能エネルギーとの関係、銅の供給制約、日本の関連企業まで投資家目線でわかりやすく解説します。
投資初心者として注目したいポイント
今回の軽油価格について調べてみて、私自身も改めて気づいたことがあります。
それは、
「原油価格=ガソリン・軽油価格」
ではないということです。
石油製品の価格を見るときには、
原油価格
↓
為替
↓
製油所の精製能力
↓
ガソリン・軽油それぞれの需給
↓
精製マージン
↓
税金・補助金
↓
ガソリンスタンドの販売価格
という流れで考える必要があります。
資源エネルギー庁も、ガソリンや軽油などの価格は原油輸入価格の影響を大きく受けるとしています。
しかし同じ原油から作られるガソリンと軽油でも、世界の需給状況によって値動きに差が生じます。
これは石油関連企業を見るうえでも重要です。
原油価格だけではなく、
「製油所は足りているのか」
「どの石油製品が不足しているのか」
「精製マージンはどうなっているのか」
まで見ることで、石油業界のニュースが少し違って見えてくるのではないでしょうか。
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まとめ
日本では現在もガソリンの需要量のほうが軽油より多くなっています。
それでも軽油価格が相対的に高くなっているのは、単純な需要量の大小ではありません。
軽油は物流など経済活動に欠かせず需要を短期間では減らしにくいうえ、ロシアや中東からの供給減少、世界的な精製能力の制約が重なっています。
そして日本国内では、ガソリンと軽油で税負担軽減の幅にも違いがありました。
「軽油税が下がったのだから、軽油はもっと安くなるはず」
と思っていましたが、実際の燃料価格は税金だけでは決まりません。
原油、製油所、世界の需給、為替、税金。
これらがすべてつながって、私たちがガソリンスタンドで目にする1Lあたりの価格になっています。
ガソリンスタンドの価格表示は、実は世界のエネルギー事情を映す小さな「経済指標」なのかもしれません。
参考資料・公式サイト
- ガソリン・軽油の暫定税率廃止と補助金の仕組みについては、資源エネルギー庁が詳しく解説しています。
▶ 資源エネルギー庁「ガソリンの暫定税率(当分の間税率)の廃止でガソリン代はどうなるの?」 - ガソリンや軽油などへの現在の燃料価格支援については、資源エネルギー庁の公式サイトで最新情報を確認できます。
▶ 資源エネルギー庁「エネルギー価格の支援について」 - 原油からはガソリン、灯油、軽油、重油などが一定の割合で同時に生産されます。こうした石油製品の「連産品」という特徴については、石油連盟が分かりやすく解説しています。
▶ 石油連盟「連産品とは」 - ガソリンや軽油が原油からどのように作られるのかについては、石油連盟が「蒸留・脱硫・分解・改質」という精製工程を解説しています。
▶ 石油連盟「製油所の精製工程」 - ロシアの製油所への攻撃と世界の軽油・ディーゼル供給への影響については、IEA(国際エネルギー機関)が詳しく分析しています。
▶ IEA「Russian refining sector struggles amid intensifying Ukrainian attacks」





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