
先日、日本経済新聞の「AI時代の労働分配率(3)『分配率は一定』への疑問」という記事を読みました。
この記事を読んで、以前から感じていた疑問が一つにつながりました。
「日本企業は過去最高益というニュースをよく見るのに、なぜ私たちの生活はそれほど豊かになった感じがしないのだろう?」
という疑問です。
そして、もう一つ考えたことがあります。
わが家には中学2年生の息子がいます。
これからAIが当たり前になる時代を生きる息子に(実際にAIを使ってレポート作成をするという内容の夏休みの宿題が出ていました)。
「勉強して、会社に入って、一生懸命働けば大丈夫」
とだけ教えることで、本当に十分なのだろうか。
そこで今回は、金融教育の一環として、
「働くこと」と「資本を持つこと」
について、できるだけ中学生にも分かるように日本経済の現状から考えてみたいと思います。
目次

日本経済新聞の記事で知った「労働分配率」
今回の記事で重要なキーワードになっていたのが、
労働分配率
です。
難しい言葉ですが、考え方はそれほど難しくありません。
会社が100万円の価値を生み出したとします。
そのうち60万円が給与などとして働く人に支払われれば、単純化すると労働分配率は60%です。
つまり、
「企業が生み出した価値のうち、どれくらいが働く人に回ったのか」
を見る数字です。
日本では、この労働分配率が長期的に低下する傾向にあります。
内閣府の分析でも、1990年代、2000年代、2010年代を比較すると、幅広い企業規模・業種で2010年代の労働分配率が1990年代より低下しています。
もちろん景気によって上下しますので、単純に「低ければ悪い」というものではありません。
しかし長い目で見ると、企業が生み出した利益が以前ほど労働者側に分配されていない可能性があります。
日本企業は本当に儲かっているのか?
一方、日本企業の利益は大きく増えています。
内閣府の資料によると、企業の経常利益は、
1985年1~3月期:約5.3兆円
から、
2025年1~3月期:約29.3兆円
まで増えました。
約40年間で5倍以上です。
もちろん企業数や物価なども違うので、単純に「企業が5倍豊かになった」という意味ではありません。
しかし、
「日本企業が全く稼げなくなったから日本人の給与が増えない」
という説明だけでは不十分なのです。
経済産業省も2010年代について、企業の経常利益や株主への配当が大幅に増えた一方、人件費への波及は限定的だったと分析しています。
では、私たちの給料はどうなったのか?
ここで「名目賃金」と「実質賃金」の違いが重要になります。
給与が30万円から31万円になれば、名目賃金は増えています。
しかし同時に物価がそれ以上に上がれば、
実際に買えるモノやサービスは減ります。
これを見るのが実質賃金です。
日本では2022年以降、物価上昇に賃金上昇が追いつかない状態が続きました。
2024年の実質賃金も前年比0.3%減となり、3年連続の減少でした。
さらに2025年も実質賃金は前年比1.3%減となり、4年連続のマイナスとなりました。一方、2026年に入って状況は変化し、6月は前年同月比1.6%増となるなど、実質賃金にはようやく改善の兆しも見え始めています。
最近は賃上げの動きも強くなっていますが、長期的に見れば日本の実質賃金が大きく伸びてこなかったことは、日本経済の大きな課題だと思います。
「企業は儲かっているのに給料は増えない」はなぜ起きる?
ここまでを非常に単純化すると、
企業が生み出す付加価値
から、
- 給料などとして労働者へ
- 配当などとして株主へ
- 税金として政府へ
- 内部留保などとして企業へ
分配されます。
したがって、
企業利益が増えることと、給料が同じ割合で増えることは別問題
なのです。
内閣府も、日本企業について付加価値に対する配当金の割合が上昇する一方、労働分配率は低下傾向にあると分析しています。
これは投資を考えるうえで、とても重要なポイントです。

そしてAI時代がやってくる
ここからが今回の日経新聞の記事を読んで、特に考えさせられたところです。
例えば、これまで
人間100人+機械
で100の価値を生み出していた会社があったとします。
AIを導入することで、
人間80人+AI
で120の価値を生み出せるようになったとします。
社会全体としては生産性が上がっています。
これは良いことです。
問題は、
「増えた20を誰が受け取るのか?」
です。
労働者の給与として十分に分配されれば、
賃金が増える
↓
消費が増える
↓
経済が成長する
という好循環になります。
しかし、増えた利益の多くが企業側に残ったり、配当や自社株買いなどを通じて株主に向かったりすれば、
企業利益は増える
株価も上がる
でも実質賃金はそれほど増えない
ということも考えられます。
AIによって生産性が上がれば、自動的に私たちの給料も同じように上がるとは限らないのです。

中学2年生の息子に伝えたいこと
ここまで説明すると、
「じゃあ働いても意味がないの?」
となってしまうかもしれません。
もちろん、そうではありません。
働くことは大切です。
勉強して知識や技術を身につけ、自分の価値を高めることも非常に重要です。
ただ、これからの時代は、
「働く人」という立場だけでなく、「資本を持つ人」という立場も知っておいた方がいい
と私は思っています。
例えば会社員として働けば、
労働 → 給料
という形で経済成長の恩恵を受けます。
一方、株式を持っていれば、
企業 → 利益 → 配当・企業価値向上 → 株主
という別のルートからも経済成長の恩恵を受ける可能性があります。
つまり、
「労働者」と「株主」の両方になる
という考え方です。

「投資は怖い」という日本人の感覚
とはいえ、ここで大きな壁があります。
「株なんて危ない」
という感覚です。
実際、私の身近な家族にも投資に対して懐疑的な考えがあります。
その気持ちもよく分かります。
日本では長い間、
貯金=安全
株=危険
という考え方が一般的でした。
バブル崩壊やリーマン・ショックなどを経験した世代であれば、なおさらだと思います。
実際、株式投資には元本保証がありません。
暴落すれば資産が30%、40%と減ることもあります。
したがって、
「貯金を全部株にしよう」
という話ではありません。
投資とギャンブルは同じなのか?
ここは息子にもきちんと説明したいところです。
一つの会社に全財産を投資して、
「この会社の株価が2倍になるはずだ!」
と勝負するなら、かなり投機的です。
一方で、
世界中の企業に分散し、長期間保有する
という方法もあります。
例えば全世界株式のインデックスファンドなら、米国、日本、欧州、新興国など世界中の企業に少しずつ投資できます。
どの会社がAI時代の勝者になるかは分かりません。
しかし世界経済全体が長期的に成長するなら、その成長の一部を株主として受け取れる可能性があります。
もちろん、これにも価格変動や元本割れのリスクがあります。
だからこそ、
長期・積立・分散
という考え方が重要になります。
「オルカンを持つ」ということを違う角度から考えてみる
ここで少し面白い見方があります。
全世界株式を保有するということは、単に
「投資信託を買う」
ということではありません。
世界中の企業のごく小さな一部分を所有することでもあります。
つまり会社員でも、
平日は労働者
でありながら、
同時に世界企業の株主
になることができます。
AIによって世界の企業の生産性が上昇したとき、
給与というルートだけでなく、
株式というルートからもその恩恵を受ける可能性を持つ。
この「会社員でありながら資本を持つ」という考え方については、以前の記事「NISAでオルカンを持つ会社員は、実は世界の資本家でもある」でも詳しく書いています。
私はこの考え方を、息子には知っておいてほしいと思っています。
だからといって「投資すれば必ず儲かる」ではない
ここは非常に重要です。
この記事で言いたいのは、
「株を買えば儲かるから投資しよう」
ということではありません。
未来の株価は誰にも分かりません。
AI企業が期待ほど利益を上げられない可能性もあります。
世界的な不況、戦争、金融危機などで株価が大きく下落することもあります。
投資には必ずリスクがあります。
だから金融教育で本当に必要なのは、
「株を買いなさい」と教えることではなく、「労働・企業・資本・投資がどうつながっているのか」を理解すること
ではないでしょうか。
日本経済を見る目も変わってくる
この視点を持つと、経済ニュースの見方も変わります。
例えば、
「日本企業が過去最高益」
というニュースを見たとき、
「景気が良くなったんだ」
だけで終わらず、
その利益は誰に分配されているのか?
と考える。
「春闘で5%賃上げ」
というニュースを見たら、
物価を差し引いた実質賃金はどうなっているのか?
と考える。
「AIで生産性が上がる」
というニュースを見たら、
生産性向上によって生まれた利益は、労働者と株主のどちらにどれくらい分配されるのか?
と考える。
これだけでも経済ニュースの見え方はかなり変わると思います。

息子に伝えたい結論
今回、日本経済新聞の記事をきっかけに、労働分配率や実質賃金について調べてみました。
そこで改めて感じたのは、
「一生懸命働く」ことと「お金の仕組みを知る」ことは、どちらも大切
だということです。
そしてAI時代には、
働いて給与を得る
だけではなく、
企業や資本の成長を自分の生活にも取り込む方法を知っておく
ことも重要になってくるのではないでしょうか。
投資をするかしないかは、最終的には本人の自由です。
ただ、
「よく分からないから怖い」
という理由だけで選択肢から外してしまうのと、
仕組みとリスクを理解したうえで「やらない」と判断する
のでは大きく違います。
息子には、どちらか一方の考え方を押し付けるのではなく、
「働く人」と「資本を持つ人」という二つの視点から経済を見る力
を身につけてほしい。
今回の日経新聞の記事は、そんなことを考える良いきっかけになりました。


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